ジャズにおける芸術性の幅と即興演奏の進化の速度を劇的に変化させた金字塔的作品。
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マイルス・デイヴィスは、ジョン・コルトレーンなどを擁した最初の偉大なクインテットを解散させ、新たなクインテットを結成する前の1959年に、新たなジャズのスタイルに挑戦した。後にそれがモダンジャズ史上最大の作品の一つになると知る由も無かった。当時のジャズ界は、ビバップからポストバップへと目まぐるしく展開していた時期であり、多くのジャズミュージシャンたちは、行き詰まりを見せていた即興演奏のハードルを越える必要があった。中でもマイルスは、ビバップの覇者であるチャーリー・パーカーのクインテットでディジー・ガレスピーの後継者として活動しており、誰よりもそれを理解していた。こうして録音された『Kind of Blue』は、複雑なコードチェンジを無くし、コード間の時間を長くして音楽に大幅なスペースが生み出した。これによって即興演奏家たちは、一息ついて楽曲と冷静に向き合えるようになった。
「私たちは今でも、まるで史上最もモダンなジャズアルバムであるかのようにこの作品を聴き続けている」
マイルス・デイヴィスは、落ち着きながらもギル・エヴァンスやジョージ・ラッセルなどの当時の先鋭的なジャズの作曲家/編曲家や、ドビュッシーやサティなどのクラシックの作曲家の和声的思考から影響を受けた新たなサウンドを打ち出した。その意味では、『Kind of Blue』は、約10年前に録音されたクールジャズのスタイルを提示した『Birth of the Cool』の続きであり、おそらく10年後に発表される、幻想的なエレクトリックジャズの幕開けとなる『In a Silent Way』の前触れといえるだろう。収録曲の中でも、2曲の印象的なバラードである「Blue In Green」と「Flamenco Sketches」には、マイルスのハーマン社のワウワウミュートを使用した代表的な演奏が収められており、金属的でありながら寄り添うような優しいサウンドは、多くのジャズトランペッターに影響を与えている。