バンドを偉大にしたものを犠牲にせずとも成長できることを証明した、第2のキャリアの絶頂期。
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『AM』は、Arctic Monkeysがそのリリースの半世紀も前から作り続けてきたアルバムのように感じる。そこには部屋で一緒に演奏するバンドサウンドから脱却し、1970年代のBlack Sabbath風のリフと、彼らが10代の頃から慣れ親しんできたドクター・ドレーのアルバムの洗練されたプロダクションを組み合わせようとする意志があった。それによって生まれたのは、滑らかでリズミックなロックンロールとR&Bが魅惑的な融合を果たした本作であり、まだ若かった彼らのキャリアの中でもとりわけ先進的なものだった。
「すべてを再起動した」
オープニングナンバーにして、本作の名刺代わりの一曲でもある「Do I Wanna Know?」は、ソウルフルなフックと尖(とが)ったリフが骨太でミニマルなビートに乗った、まさに『AM』のすべてを映し出すかのようなナンバーだ。Arctic Monkeysは2006年の『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』で、史上最もスリリングなデビューアルバムを既に作っていた。2回目の傑作である本作は、バンドが自分たちを特別な存在にしたものを犠牲にすることなく、どのように成長し、実験できるかというひな形を作り、デビューアルバムを上回るほどの成功を収めた。