容赦のない暴力性と傍若無人の極み。今なお衝撃を与え、喜ばせ、啓蒙する力を持ち続ける。
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1988年にリリースされた『Straight Outta Compton』によって、ロサンゼルスのローカルな存在だったN.W.A.は、やがてアメリカ社会に対する脅威へと姿を変えた。ドクター・ドレーの手によるシンプルでありながら非の打ちどころがないサウンドプロダクション、ブラックラディカリズムの目覚めとでも呼ぶべきアイス・キューブのパワフルなラップ、イージー・Eのあざ笑うようなニヒリズム、MCレンによる冷酷で通好みのスキルフルなラップが音楽シーンに与えたインパクトの大きさは計り知れない。
「N.W.A.は音楽だけじゃなく世界のポップカルチャーを変えた。なぜなら、アーティストがありのままでいてもいいようにしたのは俺たちなんだ」
アドレナリンが沸騰するようなタイトルトラックの「Straight Outta Compton」、サイレンが鳴り響く「Fuck tha Police」、有無を言わせないドラムが強烈な「Gangsta Gangsta」と続く本作のオープニングは、古今東西に数多くあるさまざまなジャンルの名作の中でもひときわパワフルなシークエンスだといえる。大規模災害後のように荒廃したロサンゼルス郊外から突如として現れた『Straight Outta Compton』は、音楽シーンのメインストリームにおいてヒップホップが決して無視できない存在であることをアメリカ社会に警告しただけではない。今もなおこの上なくショッキングでありながら痛快で、その後のシーンを予見するような示唆にも富んでいて、軽視できないパワーを持ち続けている。