ウエストコーストのパーティーラップ隆盛の中、ヒップホップ界屈指の人気者がもたらすハングオーバー。
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ドクター・ドレーの衝撃的なソロデビューアルバム『The Chronic』がもたらしたのがロサンゼルスのクレンショーあたりを車で流す長くのんびりとした午後のようなムードだとすれば、その直後にスヌープ・ドッグがリリースした『Doggystyle』はご機嫌なパーティーナイトと翌日必ず残る二日酔いのような感覚だった。太陽の光をたっぷりと浴びた「ナッシン・バット・G・サング」をはじめとする『The Chronic』の祝祭ムードに匹敵するように、「Gin and Juice」「Doggy Dogg World」も陽気で軽やかだが、それでも『Doggystyle』にはどこか倦怠感のようなものが漂っている。
「ものすごくディープで、とことん変わっているものを作ろうとしていた」
ドクター・ドレーらしからぬ派手なプロダクションと、いつもはレイドバックしたスタイルのスヌープが荒々しくラップしている「Murder Was the Case」は、アルバムがリリースされたタイミングでは殺人の容疑がまだ晴れていなかったこともあり、スヌープのラップがスカーフェイスのような血も涙もないスタイルを彷彿(ほうふつ)とさせた。1990年代にDeath Row Recordsの作品がチャートを席巻して商業的な大きな成功を収め、ウエストコーストのパーティーラップがまん延していた中で、パーティーの空気の中にダークなムードも漂う『Doggystyle』は他の作品とは一線を画していた。そして、それだけでなく、ヒップホップの歴史の中でも最も長きにわたって愛されることになるキャラクターの登場を強く印象付けることになったのだ。