1990年代を代表するバンドが、21世紀の初めに“ロック”を打ち壊した革命的一作。
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1997年のサードアルバム『OK Computer』をきっかけとして、トム・ヨークは自分たちがロックバンドをやっているという事実に抵抗し始めていた。同作を経たレディオヘッドは多少のストレスと叫び、そして狂気をもって、いよいよロックバンドのルールからの脱却を決意することになる。そうして誕生した革命的なアルバムが、『Kid A』だ。
「どんなアーティストやミュージシャンも、自分の活動について考え直す時期を経験するものだ」
レディオヘッドは『Kid A』でオーセンティックなギターロックを捨て、エレクトロニカやアンビエント、ジャズ、クラウトロックなどに大胆に移行。サンプルやループを多用したサウンドメイキングや、フレーズをランダムに組み合わせた抽象的な歌詞によって、ロックの定型を切り刻んでみせた。船酔いしそうなシークエンスとヨークの多重ボーカルが、オランダの版画家マウリッツ・エッシャーのスケッチのように折り重なる「Everything In Its Right Place」は、「Creep」に象徴されるかつてのレディオヘッドから、彼らがいかにこの不気味なサウンドに飛躍したのかを策略的に伝えるナンバーだ。しかし同曲は『Kid A』の異様さのごく一部にすぎない。「The National Anthem」のフリーキーなベースやほえるようなホーン、「Motion Picture Soundtrack」のオペラチックな揺らぎ、「In Limbo」の屈折したギターと幻惑的なリズムなど、レディオヘッドはどの曲でも新たな空間を発見している。